まだ二月なのに何でこんなに暖かいんだ?年々、地球もおかしくなってるんですねー。
腋の下が湿ってきた。青山に向かうこの緩やかな坂道は意外と疲れるんだよな。
今日は他大学での特別講義がある為、普段なら行かない青山へと向かっているのだ。
表参道に並ぶブティックには蝶々の様なヒラヒラとした薄い生地の洋服がディスプレイされている。あのワンピース一枚で俺の給料半分は軽く飛びそうだな。ヴァレンタインも終わり、世間ではもう春の準備が始まっている。そう、ヴァレンタインは過ぎてしまった。今年もまた俺は忍にチョコレートをやっていない。別に愛情が無いとか、忍の事を想っていないワケではないのだが。いや・・・その何だ、こんなオジサンがキラキラパッケージのチョコレートなんか買えるかっての!恥ずかしくてそんな事できるか。でも14日、忍は俺にチョコレートを持って来た。義理チョコだとか云ってたが、俺の顔を見ずに真っ赤になって俯いている忍の姿で本命だって事が丸わかりだった。ま、それが余計に可愛かったりするんだよな~って、俺も重傷だナ。
青山通りが見えてきたぞっと。ん?あれは菓子屋か?店の中から見たことのある茶色のシンプルな袋を持つ女性が出て来た。あ~、昔理沙子が買ってきた事あったな。有名なショコラティエだとか何とか云ってたな。どれちょっと拝見。外から店内を覗くと身なりの良い男性客も女性客の中にちらほら混ざっていた。ま・・・入るだけ、入るだけだ!決して買わんぞ。なんて自分に言い聞かせながらドアーを開いて甘い匂いのする店内に入った。
「おっさん、もう食べないのかよ?」
うっ!あの整った顔で睨まれると凄味があるんだよな。忍は手料理を残されたのが不満らしい。
大皿にはまだ焦げたキャベツ炒めらしき物が残っている。が、もう限界だ。
大皿にはまだ焦げたキャベツ炒めらしき物が残っている。が、もう限界だ。
「忍ちん、申し訳ないのですがキャベツ一個を一食で食べきるのは辛いのですが。」
「あぁ?こんくらいの量大したことないだろ。ダイエットでもしてんのかよ。」
「いや、忍ちんの愛情でお腹いっぱいだな~なんて。ははっ・・・。あ、今日は俺が片付けるわ。ついでに食後の茶も俺が淹れてやる。」
「何?なんか今日のアンタ気持ち悪い。ご馳走様でした。」
忍は怪訝そうな顔つきをしながらソファへと移動した。かーっ!可愛くねぇな全く。さて、食器は流しへと運ぶっと。残ったキャベツ炒めは冷蔵庫だな~明日の朝飯にでもするか。冷蔵庫を開き、残り物を押し込み代わりに牛乳を取り出す。戸棚に隠しておいた茶色の袋も準備した。実は忍が料理している間、これを発見されやしないかと冷や冷やしていたのだ。
水と牛乳を鍋に入れ、沸騰させその中へ茶色の粒を落とす。パラパラパラ、ポチャン。泡立て器でぐるぐると丁寧に混ぜる。白い液体にすうっと茶色が浮かび上がってくると思わず表情が綻んでしまう。結局俺はボックスのチョコレートは買わなかった。かっちりした箱と赤いリボンが仰々しくて何だか照れくさかった。鍋の中の液体は優しいなめらかな茶色に変化して、カカオの甘くて苦い香りがキッチンに広がってきた。俺にはこれくらいが丁度良い。選んだのは透明の筒に入ったチョコレートドリンクだ。
ソファに座って本を読んでいる忍の隣にマグカップを二つ持って座る。
「ほら、遅くなって悪かったな。」
忍は本をテーブルに置き、俺からカップを受けとる。
「遅くなったって?」
「いいから飲めよ。ちょっと店の前を通りかかったからさ、買ってみたんだわ。」
横目で忍を見ると、カップに唇を付け喉が微かに動いた。何で俺がどきどきしてんだか・・・。
「宮城っ!これってチョコレートだ!!ヴァレンタインのチョコレートって事なのか?」
大きい目をさらに大きく開いて俺を見つめる。ははっ、目ん玉がこぼれ落ちそうだな。
「いや、違うって事じゃなくてなんつーか、ホラあれだ。」
「はっきり云えよ!」
「・・・・・・・・・・ヴァレンタインだ。」
忍の顔がぐしゃっと崩れる。嬉しそうな泣きそうなよく分からん顔だ。嬉しいなら素直に笑えば良いのにコイツは絶対に笑顔を見せないのだ。
「宮城っ!!」
勢いよく俺に抱きついて、腋の下におでこをぐりぐりと押しつけている。そんな仕草もたまらなく可愛かったりするわけで・・・。たぶん忍は今満面の笑みを浮かべているのだろう。いつも俺に見えない様に笑うのだ。でもそれで良いんだ。忍には毎日、とはいかないけれど笑顔の素を俺が与えてやれたら良いなと思っている。忍の笑顔を思い浮かべながら、忍の頭のてっぺんにある旋毛に軽くキスを落とした。
テロのバレンタインを妄想していました。あの二人はあまあまいちゃラヴカップルでは無いと思うので、バレンタインなんて関係なさそうですね;でもたまにあるいちゃいちゃ(?)がたまりません(>_<)
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